産業遺産をデジタル化
旧通産省公募事業に採択 カーナビ向けも供給
ソフト産業の集積の乏しい中部地域で異彩を放つのがインターネットコンテンツ(情報の内容)制作などを手掛けるエイ・ワークス(名古屋市)。赤崎まき子社長(51)はシンポジウムで引っ張りダコ。1997年に手掛けたデジタルコンテンツ「日本の産業遺産データベース」が旧通産省(現経済産業省)の公募事業に採択されたのがきっかけだ。

地域の自画像を描くような仕事がしたいと思っていたときに知人から産業遺産の研究者を紹介された。産業遺産をたどればものづくりの歴史がよく分かる。観光ガイドブックなどを作成していたので産業遺産を観光素材にしようという発想も自然に生まれてきた。ものづくりが盛んな中部だからこそ出会ったテーマだ。

もともと企業広報誌など紙媒体のコンテンツ制作が中心だった。だが「デジタル媒体にシフトしないと将来はない」と96年から事業領域を転換。社員のだれ一人ノウハウを持たないなか「これまでで最大の挑戦だった」。

「日本の産業遺産データベース」の制作では画像データベース作成ソフトを苦心して開発した。研究者らが集めた画像データをデジタル化し、産業遺産の造形美や重圧感をデジタルの世界で再現する中で、デジタルコンテンツの制作も一種のものづくりだと実感した。アニメーションを多用した科学技術振興事業団の「産業遺産ナビゲータ」など親しみやすいホームページの制作も手掛けた。デジタルにシフトすることで大きな可能性を手に入れることができた。

観光ガイド制作で蓄積したデータをデジタル化し、カーナビ向けに供給するなど新規分野にも乗り出した。最も注力しているのは高度道路交通システム(ITS)向けのコンテンツ開発だ。2002年から名古屋大やデンソーなどと共同で交通情報サービスの研究開発を続けている。ITSの基盤整備が進めば提供できるコンテンツは限りない。中国など海外への事業展開も考えると今後の可能性の高い分野だ。

もともと大阪の広告代理店で働いていた赤崎社長。約20年前に名古屋で仕事を始めたが、最初に驚いたのは情報やアイデアで勝負するソフト事業への認識の薄さ。他地域では当たり前の企画費すら「なぜアイデアにカネがかかるのか」と支払いを断られそうになったこともあるという。

製造業中心の歴史が長く目に見えないものへのコスト意識が根付かなかったのだろう。今なお情報や知恵はタダと考える人が多い。中部にソフト産業や情報産業が集積しないのも、また中部発の情報発信が少ないのも、これまでの情報軽視の姿勢に理由があるのかもしれない。だが、この地域にはまだ掘り起こされていない魅力ある無形のコンテンツは多い。ブランド力といった目に見えない情報がもたらす付加価値をもっと重視する必要がある。情報発信の足りなさを埋めていく一助になればと思う。